高齢者の大動脈弁狭窄症に、京都岡本記念病院では、循環器内科と心臓血管外科が連携し、2022年の秋から経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を開始しました。
大動脈弁狭窄症とは?
無症状で進行する病気
心臓弁膜症の代表的な疾患である大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis:AS)は、心臓の弁のひとつがうまく開かないために、心臓から全身に血液が送り出しにくくなってしまう病気です。進行すると心不全などを起こし、さらには突然死を招くこともあります。無症状で進行するので、早期発見と適切なタイミングでの治療が重要です。
高齢化とともに増加傾向
大動脈弁狭窄症にはさまざまな原因がありますが、加齢による動脈硬化も原因の1つで、高齢化の進む先進国で広がりを見せています。わが国での罹患率は60~74歳で2.8%、75歳以上で13.1%と報告されており(※1)、60歳以上のAS潜在患者は約284万人、そのうち手術を要する重症の患者は約56万人と推計されています。
※1
De Sciscio P, Brubert J, De Sciscio M, et al. Quantifying the Shift Toward Transcatheter Aortic Valve Replacement in Low-Risk Patients: A Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Qual Outcomes 2017; 10: e003287.
TAVIとは?
高齢の方に!開胸しない治療
大動脈弁狭窄症の治療には、内科治療(薬物による保存的治療)と外科治療(手術)があります。重症な場合は手術となりますが、胸を開いて心臓を止め、人工心肺を使用する手術は、ほかの病気もある患者さんや、高齢者には無理だと判断されることがあります。
TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)は、機能が低下した大動脈弁を医療用の管(カテーテル)を用いて人工弁と置き換える治療法です。胸を開かず、心臓を止めずに行える治療なので、これまで手術に耐えられないと判断された高齢者にも可能性を開く、比較的新しい治療方法です。人工心肺を使用せず、傷口も小さいので、体への負担が少なく入院期間も短いのが特長です。
TAVIの治療を開始しました
京都岡本記念病院では2022年秋から、TAVIの治療を開始しました。 TAVIを行うには、循環器内科医、心臓血管外科医だけでなく麻酔科、放射線科など多科、多職種それぞれの知識と技術が必要となります。また、外科手術とカテーテル治療がシームレスに行えるハイブリッド手術室が不可欠です。TAVIは、これらの条件を満たし、「カテーテル大動脈弁移植術協議会」の認定をうけた施設でしか行えない治療です。
太ももの付け根の太い血管からカテーテルを挿入する「経大腿アプローチ」は、TAVIのなかでも基本的なアプローチで、体に負担が少ない方法といわれています。